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★ひとこと★
プロフィール
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華乃都(かのと)
年齢:
39
性別:
女性
誕生日:
1985/09/25
職業:
船医
自己紹介:
このサイトは『レイアース』『デジモン』をメインとする二次元小説サイトです。原作や作品の関連団体とは一切関係ありません。
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花火 
*「月夜~」パラレル番外編2008summer




=====



静かな夜。
少し早めの食事を済ませたフェリオとフウはソファーに並んで座り、何気ない会話を楽しんでいた。
会話の切りが良いところで「なにか飲み物を持ってきますね。」とフウが立ち上がった瞬間、暖かな静寂を壊すとてつもない爆音にフウが声を上げてその場にしゃがみ込んだ。

「な、何事ですか!?」
「ん?」
フェリオがベランダに繋がる窓から空を見上げた。
夜空は至って快晴、月と星が瞬いている。どうやら雷ではないらしい。
それからフェリオは壁に架かっているカレンダーを見た後に腕時計で時刻を確認して、そうか、と呟くと動けないでいるフウの傍によって頭をポンと叩いた。
「大丈夫、今日は花火なんだ。」
「花火?」
爆音の恐怖で僅かに濡れたフウの目尻をフェリオは指でそっと拭ってから立ち上がらせると、手を引いてベランダに出た。
外に出るとより一層大きな音がして、太鼓のばちで胸を叩かれるような衝撃の連続にフウはその度に肩をビクつかせた。その肩をフェリオは横からそっと抱く。
「日本の夏の風物詩だよ。この時期になると、花火師が火薬の詰まった球を夜空で爆発させて、俺達はそれを見て楽しむ行事なんだ。」
「本で読んだことがありますわ。たしか、爆発音の後に夜空を見上げると、そこには大輪の花が咲くとか。」
「そういや今年はまだ見てないな。あ~…ここからじゃさすがに音しか聞こえないか。」


今年の夏は大学が思いの外忙しかった。夏休み前に気まぐれで提出した論文、これがなぜだか担当教授に好評で気に入られてしまい、更に内容を濃密にする為に資料を集めたり研究会に参加したりと、日常と変わらない生活になってしまった。
それらが一段落した頃には旧盆を過ぎ、暑さも和らいで、夏の終わりが見え始めていた。

その為、恋人と楽しむにはもってこいの夏の行事をことごとく逃してしまったのである。
そして今回も…、これではただの騒音でしかない。
隣りで夜空を見上げるフウの横顔がどこか寂しそうに見え、フェリオは罪悪感を覚えた。


ふと、フウがフェリオを見上げた。目が合う。
「フェリオは『花火』がお好きですか?」
「ん?ああ、好きだよ。」
「それでは、見に行きましょう。」と、にっこりと微笑むフウ。
「え、でも今から行っても、間に合わないぞ。」
最短の交通ルートを使って向かっても30分はかかる。大トリを見られるか、ギリギリと言ったところだ。残念だけど仕方がない。
来年行こうな、とフウに優しく笑顔を作るフェリオ。それで会話が終わると思ったその時、フウは突如ホウキを取り出した。
「では、空を飛んで参りましょう。」笑顔を崩さないフウ。いつの間にか、二人は手を繋いでいた。
「は?ちょ、ちょっと待て!フ…-」

気が付くとフェリオは、フウと共に空高く飛び上がっていた。









ヒューという音と共に一筋の光が空に上がると光の粒子達が綺麗な円を描いて夜空に舞い散る。
そして後を追う様に低音が身体に響く。

「これが…花火…」

10分ほど飛行した後、ほどよい高さのビルを見つけ、二人は屋上に降りた。
そこに人気はなく、花火の夜といえど、立ち入り禁止の場所なのだと想像が付く。
目の前に止めどなく上がる華やかで豪快な大輪にフウは目を輝かせていた。

その後ろでフェリオは花火よりもここまで乗ってきた箒とフウを見つめた。
「さすが魔女、この手があったか…」
「本当はあまり魔法を使っては行けないんですが、日本の文化を知るために、という事で。」
「…お前、さっきまで調査の事忘れていただろ。」
フェリオはその場に箒を置いてフウの隣りに並び、打ち上がる花火を見上げた。

「綺麗、だな。」
「ええ、本当に。」
「こんなに近くで見たのは初めてかもしれない。」
「そうなんですか?」
「会場は人が多いからな。見る時はもっと遠くからみている。それに-」フェリオはフウの肩をそっと抱き寄せた。
「恋人と一緒に見るのも初めてだ。」
フェリオの言葉に驚いて、フウがフェリオを見上げると目が合う。
「恋…人?」
「言葉にすると、やっぱり照れるな。」少し顔を赤くして、空いている方の手で自分の頭を掻いた。
フウもつられる様に頬をほんのり染め、「はい。」と小さく頷いた。



花火もそろそろ終盤だ。
クライマックスに向けての準備なのか、はたまた時間調節なのか、一端花火が止まった。しーん、と静寂が現れる。

「フウ、一つお願いがあるんだけど。」
「なんですか?」
「…そろそろ、『さん』付けやめないか?」
「え?」
「フェリオ、でいいよ。」
突然の事にフウは目を丸くした。それから慌てて首を振る。
「そ、それは駄目ですっ。」
「どうして?」
「わ、私達の国では、尊敬の意を込めて、必ず皆さんをこうお呼びする事になっているからです。」
「オレは『フウ』って呼んでいるけど?」
「だ、男性の方は…いいんです。でも女性は…」
なぜだか顔を赤く染めて言いづらそうにしているフウにフェリオは不思議に思い、首を傾げる。
黙って次の言葉を待っているフェリオに気付いて、フウは自分の胸の前でぎゅっと拳を握ると、俯いたまま言った。

「…女性は、女性が呼び捨てしてもいいのは……旦那様だけです。」
言ってしまった、という様にフウは熱い頬を両手で隠し、より一層俯いてしまった。
優しく吹く風がフウの髪を揺らし、耳まで赤いという事がわかる。

驚いて一瞬言葉を失ったフェリオだったが、フウの様子にクスリと笑った。


-可愛い。

突然の花火の音に怯えたところも、好奇心で予想だにしない突発的な行動をとるところも、こうして赤くなるところも、全部可愛い。


フェリオはそうか、と業とらしく腕を組み、ニヤリと口角を上げてフウを覗き込んだ。
「それなら、是非とも呼び捨てにして頂きたいかな。奥さん?」
「フェ、フェリオさん!?」
驚いて顔を上げるフウ。その表情に思わずフェリオは吹き出してしまった。
「からかうなんてひどいですわ!」
「ごめんごめん。」
言葉とは裏腹に、なかなか笑い収まらずにいるフェリオにフウは怒って、ふんっと顔を背ける。
その横顔を見つめ、フェリオは小さく自嘲した。

二人で過ごした時間が、このくらいの冗談でフウが本気で怒らないという確信を持たせた。
そしてそれがフェリオにとって、フウの前で自分を保つ為の行為になっていると気付いたのは、最近の事。
荒ぶる感情によって現れた行動で、フウに嫌われるのを怖がっている自分に反吐が出る。



「…いつか、呼べたらいいと、思っていましたのに…。」

「え?」

小さく呟いた声にフェリオは意識をその場に戻した。
目の前では、しまった、と両手で口を塞いだフウが困ったように上目遣いでフェリオを見上げている。
フェリオは真剣な瞳を向けて、普段より低音で言った。
「…俺は、いつかじゃなくて、今がいい。」
「そ、それは…まだ、心の準備というものが…」
「じゃあ、次の花火が上がったら、呼んでくれるか?」
「み、短すぎます!」
「俺には長いくらいだ。」
「フェリオ…っ――」

ヒュゥ…     ッドン!

フウの抗議は鮮やかな花火の音とフェリオの唇によって遮られた。
どこかで再開した花火に沸く人々の声が聞こえる。様々な形をした花火はクライマックスに向けて続けざまに上がっていく。
フウの身体に回されたフェリオの腕が緩み、唇が離れた。
互いの額をピタリとつけ、フェリオはフウを見て、フウは恥ずかしそうに俯いて視線を泳がせている。
「途中で止めたのは、わざと…ですか?」
「続きなんてあったのか?」
誰が聞いても惚けているとしか思えないフェリオの質問の返しにフウの唇が、ずるい、と動く。
フェリオはクスリと笑うと、フウの肩をぎゅっと抱きしめた。

「好きだよ、フウ。」

「私も…好き、です。」
フェリオの背中に腕を回してから、フウは小さく「フェリオ。」と名を呼ぶ。


また一歩、キミとの距離が縮まった。




fin
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