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「秘密~♪」
ヤマトは駅の看板を見上げた
「せい・・・せき・・・桜ヶ丘?」
<夕陽>
昨夜、聞き慣れた、俺の携帯の着信音が鳴って、聞き慣れた声が聴こえてきた。
『なぁ、明日さ、ちょっと俺に着いてきてくれねぇ?』
以前から明日は太一と二人で出かける約束をしていたが、行く場所までは決めていなかっのだ。
・・・大体いつも当日に決めるパターンだし、お互い連絡しあわなければ、自動的に我が城で団欒。・・・団欒?
とにかく、今回もそうだろう・・・。そう思っていた時に、この誘いだ。
「・・・なんか企んでんじゃないだろーなぁ・・・」
ヤマトのいつも以上に低くなった声に、な、なんも企んでねぇって!と、焦って否定する。
・・・ホント、太一は、わかりやすい・・・。
どうせ太一の事だ。サッカーの観戦か練習か・・・そんなところだろう。
・・・まぁたまにはコイツに付き合ってやるのも悪くないか。
わかった、とヤマトが返事をすると、スピーカーの向こうから太一の喜ぶ声がした。その声にヤマトは携帯越しに小さな笑みを作り、じゃあな、と電話を切った。
・・・・・・・・そんな甘い感情を持った俺がバカだった。
交通費片道約千円、電車を二回乗り継ぎ、揺られる事一時間半。聖蹟桜ヶ丘駅、という全く聞いたことのない駅に連れてこられてしまったのだから。
「やっべ!急がねぇとっ!」
太陽の傾きを確認した太一は、地図を片手に、駆け足で前進すると、突然くるっと、ヤマトの方を振り返り、周りを気にすることなく、大声で呼んだ。
「ヤマトー!駆け足ー」
「・・・なんなんだよ、一体・・・」
ヤマトは、はぁっと大きく溜め息をついて太一の後を、あくまでも、ゆっくり追った。
「・・・・・・」
しばらく歩いて、ヤマトは太一越しに見える、目の前に続く道に、前進する気力が失ってしまった。
それは先の見えない上り坂。付け加え、くねくねとかなり長い。
この先に待ち受ける苦難に吐き気がして、小さく「帰る」と呟き、回れ右をして一歩踏み出した。その声に少し前を歩いていた太一が気づき、やっぱり・・・という様なため息をついて頭を掻いた。
「まぁまぁ!今日は俺に付き合ってくれんだろ~?」
太一はタタッと素早くヤマトに駆け寄り、背後に回って肩を掴むと、ぐい、と方向転換をさせ、背中を押して無理矢理前進させ始めた。その、果てしない坂道に向かって。
太一とは長い付き合いだ。俺が、こういう面倒臭い事-特に疲れる事を嫌っているのを知ってる。それなのにこんな所に連れてきた。理由は・・・わからない。と、いうか、そこに行くまでは秘密らしい。・・・俺は横目で太一を睨みつけて、試しに聞いてみた。
「・・・進む事で俺に何かメリットはあるのか?」
「あるあるっ!シャンプーでもリンスでもっ!」
「・・・・・・」俺はこんな奴に着いてって大丈夫なのか?と、ヤマトが本気で心配になった瞬間だった。
登り始めて30分。
「たーいーちー!」
未だに続く坂道。果てしないその坂道にヤマトは苛立ちを覚え、今にも殴りかかりそうな声で太一を呼んだ。
「もぅちょいだからー♪」当の本人は、のん気な声で、ヤマトを見ることなく前進している。
ヤマトは額の汗を腕で拭った。
5月の半ばというのに今日はいつもより暑い。まるで初夏の様。真横から照りつける太陽に汗が滴り、体力を奪われる。
自分自身では体力がない方ではないと思っていた。ついこの間のGWには、2時間ライブを3夜連続で行って来たばかりだ。しかし、太一と並ぶと、到底敵わない。
-2時間の早朝ランニング。平日の朝連。放課後の部活。自主練。-
それを毎日欠かさず行っている彼は今、鼻歌を歌いながら俺の前をズンズンと歩いていく。
・・・カッコイイ。
太一の背中を見るヤマトの瞳は、尊敬という色を放っていた。そして、徐々に愛しさに変化していく。
普通なら「速度落とせよ!」とか「こっちのペースも考えろ!」とか腹を立てる事なんだろうな…。
だけど俺は太一のこういう気を使わないこういう所が、本当に好きだ。
元々、回りに気を使う-もとい、使えるヤツじゃないけど、俺にはわかるんだ。
―誰よりも、信頼されているんだ、ということを-
だから、俺も無理に着いていたりしないからな。
と、太一が突然、ヤマトの方に振り返った。心の声を聞かれた気がして、ヤマトはどきっとした。
・・・なんだよ、と少し焦ったようにヤマトが問うと、太一はニッっと笑って、こう言った。
「いるな、と思って。」そうとだけ答えると、また前を向いて歩き出した。
ヤマトは天気のせいではない熱さを身体の奥で感じていた。
しばらくその背中を見つめながら歩いていると、妙な感覚に襲われた。
-まるであの時みたいだと。-
それはヤマトの中に残った感覚だった。自分自身、『あの時』というのがいつの事だったか思い出せない。だけど、俺は以前に同じような光景を見ていた様な気がしていた。
坂を一生懸命に登る太一の後ろ姿・・・。どこかで・・・―――
「着いたーー!」太一の絶叫に、はっと我に帰った。気が付くと、いつの間にか太一との距離は登り始めた時の倍近く開いていた。
「ヤマトー!早くー!」
坂の上の太一は、満面の笑みでヤマトに向かっておもいっきり手を振ってきた。
・・・昔と変わらない、子供っぽい無邪気で愛くるしい笑顔。太一が自分に見せる最高の表情。
「・・・今、行く」込み上げる想いに、俺は、自然と駆け足になっていた。
ヤマトは息を切らして太一のもとに駆け上った。
そこは舗装された道路から少し脇に逸れた自然に出来た高台だった。ヤマトは段差のある大きな岩の上にいる太一の手に掴まり、向き合った状態で太一と同じ場所に上がった。
すると、太一は声に出さずに顔で「後ろ、見てみ?」とヤマトにジェスチャーをしてみせた。
「う・・・わぁ・・・」
太一越しに見た景色は、夕日でオレンジ色に染まった空と、街並みが目の前に広がっていた。
「・・・すごい・・・」なんて眺めだろう・・・。この景色を表す適切な言葉が見つからない。
「な?頑張って登ってきた甲斐があっただろ?」太一が両手を自分の腰に当て、えっへん、と胸を張った。
「…ああ…」ヤマトはしばらくこの景色から目が離せなかった。
赤とも、黄色ともいえない、澄んでいて、でもとても奥深いオレンジ色。
夕焼けは自分のマンションからもみえる。しかし、お台場にはない、この足元に広がる町並みが、俺の心を掴んで放さないでいた。
びっしりとつまった宝石箱の様な街。人工的な灯りと、夕陽の光が反射された灯りが街の中で点々と光っている。
お台場の様な開発地帯と違って、何年、何十年、下手したら何百年という時の記憶をそれぞれの建物が持っているのだ。そして、その建物の周りでひっそりと暮らす動物達、住んでいる人間達の沢山の記憶が、この町には溢れている。
ヤマトはそんな眺めに心を奪われていた。
太一はそんな感動に浸っているヤマトを、ちらっと見ると自分も隣りに並んで一面に広がる赤い街を見下ろした。
海浜公園からみる夕日も好きだけど、こっちの方が心地良い。生命の強さをすごく感じる。
・・・俺達は戦ったんだ。こんなにも命に満ち溢れた街や、自然を守る為に。なんと誇らしい・・・――。
「ああ、そうか」
沈黙を破ったヤマトの声に太一が、え?、とヤマトを見た。
やっとわかった。太一が俺を連れてきた理由。そして、心の奥深くにあった『あの時』が。
「お前がここに俺を連れてきた理由だよ。・・・あの時の景色に似てるからだろ?」
「あの時?」太一はヤマトを見て首を横に傾げた。
「ファイル島のムゲンマウンテン」
「あ」そういえば、と驚いた顔の太一にヤマトが、ふぅ、とため息をついた。
「何だよ、自覚なかったのかよ」
「あはは・・・。まったく・・・」誤魔化そうとする太一の顔が引きつって笑った。
・・・体が自然とココに引き寄せられたって事か。
やっぱり、『リーダー』だな、と小さく呟いた声に太一が反応した。
「なに?」
「いや、ひとりごとだ。」そう、目を細くして、太一に優しく微笑みかけるヤマトの笑顔が、夕陽の効果で、いつもより綺麗だった。
-太一は、ドキっとした。
「な、なぁ。オレンジって俺の紋章の色だよな?」
太一は自分の頬が熱くなるのを感じて、ふいっと景色を見つめ直し、こう言った。
「なんだよ、急に。…そんなの、自分が一番よくわかってんだろ?」太一の言動に理解できないまま、ヤマトは彼の問いに答えた。
そんなヤマトに向かって太一が指差し、ニッと歯を出して笑った。
「ヤマト今、俺色に染まってるゼ♪」
「!!」
確かに今、夕日の効果でヤマトの全身は街や空と同じオレンジ一色だった。
ヤマトはそんな自分の状態に驚いて、かぁっ、と顔を赤くする。
「お、お前なぁ…よくそういう恥ずかしい事、平気で言えるな…//」
そんな自分を太一に見られまいとヤマトは片手で顔を隠した。
「へへっ。ヤマトだから、だよ♪」そう無邪気に答える太一の頬も少し赤く染まっていた。
「・・・ばーか。」ぐいーっと太一の顔を押して、二人はいつもの様にじゃれてみせた。
と、ヤマトが隣りにいる太一の目の前に手を伸ばした。
なんだ?と、不思議そうにヤマトの細い指を太一は見つめる。
「・・・手、・・・繋ぎたい。」
それは、ヤマトの中から自然と出てきた言葉だった。
-今、・・・本当に太一に触れたいと思ったんだ。
もちろん、そんな事を他人-しかもヤマトから言われた本人は驚いて固まった。
少しして、はっと我に返り、明日は雪じゃん!と叫ぶ太一にヤマトの鉄拳が飛ぶ。
「わわっ!冗談だって!はい、どうぞ~♪」
殴る凶器として振り上げられた固く閉ざされた拳を掴み、太一の手がヤマトの手に絡みつく。
二人はしばらく、そのまま黙って沈みかける夕陽をじっと見つめる。
・・・こんな風に素直な気持ちになるのは、きっとこの景色のおかげだな。まぁ・・・オレンジは関係ないケド。
ヤマトはそんな自分の気持ちの矛盾に、密かに苦笑しながらも指先から伝わる太一の熱に心を躍らせてた。
広い空は太一のオレンジからヤマトの青に染まろうとしている。
fin
fin