PC閲覧推奨レイアース&デジモン二次創作小説blog。
カテゴリー
プロフィール
HN:
華乃都(かのと)
年齢:
39
性別:
女性
誕生日:
1985/09/25
職業:
船医
自己紹介:
このサイトは『レイアース』『デジモン』をメインとする二次元小説サイトです。原作や作品の関連団体とは一切関係ありません。
*ご覧になられる方はまずカテゴリの「AKIKANとは?」を一読ください。
*ご覧になられる方はまずカテゴリの「AKIKANとは?」を一読ください。
カウンター
現在キリ番よるリクエストは受け付けておりません。
ブログ内検索
最新コメント
[06/26 華乃都]
[04/12 3児の母]
[05/11 華乃都]
[04/27 テン?あくの?]
[01/18 華乃都]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
街灯に火が灯る。
いつの間にか、町は様々な色の光で暗闇を煩いほどに照らし始めた。
午後6時。
「早いなぁ…」
この間まで、この時間ならまだ空は明るかったのに。夏が終わる合図のようだと薄暗い空を見上げて溜め息をついた。
家に帰る途中、ふらりと寄った本屋で、良く知る顔を見た。
「よぉ」
「あ、太一さん」
学校でも有名な秀才、光子郎だった。
胸には数冊の参考書とパソコン雑誌が抱えられている。
「どうしたんですか?太一さんがこんな所にいるなんて。」
明日は雨ですねぇ、と、にこやかにからかう光子郎にムッとして斜め前にあった雑誌を乱暴に取った。
「これを買いに来ただけだっ」
目の前に出されたそれを見て、光子郎はへぇ、と意外そうに声を出した。
「太一さんもそういう本、買うんですね。」
太一の手には若者向けのメンズファッション雑誌が握られている。
サッカーにしか興味がないと思っていたのに、と太一を見上げた。
「…なんだよ。」
眉間にシワを寄せて恐る恐る問う太一に、光子郎はいつも以上ににっこりと笑う。
「いえ、人って変わるものだなぁと思いまして。」
光子郎の発言に太一はがくっと肩を落とした。
「あれ?」
突然、光子郎が太一の手元を見て変な声を出した。
「あの、太一さん。この人……」
光子郎が指差す雑誌の表紙を見た。そこには黒髪でサングラスをした華奢な青年が、さり気なくポーズを取っている。
「あーーーーーーー!!!!!!」
本屋中に太一の声が響き渡った。
叫ぶのも無理はない。
ジャケットを飾っていたのは、太一の愛しい無二の親友のだったのだから…。
「なんだこれは!!」
「……は?」
玄関を開けたと同時に目の前に出された雑誌と声に、ヤマト訳がわからず目の前の人物を見つめた。
太一はまだ制服で、エレベーターを待たずに、非常階段を駆け上がったのだろうか。
肩で息をして、額には汗をかいていた。
「これはなんだって聞いてんだよ!」
太一のそんな様子に、呆然と立ち尽くしているヤマトの胸に、太一ドンと例の雑誌を押しつけた。
ヤマトはその雑誌を手に取って眺めると、特に慌てる様子もなく、ああ、と理解しているかの様な声を漏らす。
「もう発売されたのか。」
ペラペラ~と自然にページを捲り、全体に目を通し始めた。
そんないつもと変わらぬ素振りをみせるヤマトに、ここに来るまで半信半疑だった太一の中の思いが、確信に変わり、強く握りしめていた拳を解き、だらりと腕を降ろした。
「やっぱり、これはお前なんだな…」
さっきの罵声を発した人物とは別人の様に俯きながら、太一が言う。
しばらくの沈黙の後、ヤマトは太一に視線を向け、ふぅ、と溜め息をつくと、扉を大きく開けた。
「入れよ。ここじゃ話せない。」
太一はヤマトに促されるまま、石田家に入った。
閑散としたリビングは陽が落ちてから、かなり経つというのに、むっとしていた。
太一は鞄をテーブルに置いて、椅子を引くと、いつもの-もはや固定席と言っても過言ではないそこに座った。
「ほらよ」
ヤマトは冷えた麦茶を太一の前に出した。
「………」
あれっきり、太一は俯いたまま、一言もしゃべらない。
わかっている。
何も言わなかった自分が悪い。
でも、太一ならきっと殴りかかってくるだろうと思っていたヤマトに、今のこの状況は予想外だった。
口も手も、あれきり閉ざされたまま。
はぁ、調子が狂う…。
ヤマトは再度溜め息をついて、太一に例の雑誌を投げると、彼の隣りに立って言った。
「確かに、これは俺だよ。」
太一が顔をあげて、ヤマトを見上げた。
その瞳は怒りより、悲しみに満ちていた。
そんな表情に一瞬言葉を詰まらせるが、ヤマトは先を続けた。
「夏休み前に親父から頼まれてやったバイトだ。学校や世間体があるから、嫌だと言ったら、髪を染めてサングラスも掛けていいと言われた。だから…」
「カネの為ならなんでもするのかよ。」
そう低く問う太一の言葉に、ヤマトは特に驚く様子もなく、静かに答えた。
「違う、これは…自分の為だ。」
そう言うヤマトの真剣な眼差しに絶え切れず、太一は再び俯いた。
「…俺はお前のそういう所が嫌いだ。」
太一の言葉にヤマトは驚いて目を見開いた。
―キライだ。
今まで、喧嘩の勢いで、自分が言う事は何度もあったが、今の関係になって、太一からこの言葉を聞くのは初めてだった。
胸の奥がズキズキする。
ヤマトは、ぎゅっと自分の胸を押さえて言った。
「…理解してもらおうなんて思ってないさ。」
高校3年生の夏といえば、もう進路を決めている時期。
それは自分達が子供でいられる時間も残りわずかということで・・・。
必死に働いている父を見て、早く楽をさせたいと思った。
そして、夢に向かって突き進む太一を見て、羨ましいとも思った。
「夢中になれるものがある太一が羨ましいよ」
ヤマトの声が、わずかにかすれた。
太一は、ヤマトの声に違和感を感じ、彼の名を呼んだ。
ーバンドで飯が食えるなんて思っていない。
自分の実力くらい、自覚してる。
だから、このバイトだって、そういう世界があるなら、見て見たいとは思ってした事だったんだ。
「黙ってて、悪かった」
自分には太一の様に大きな夢がなくて、それが悔しくて、悲しくて…。
探している自分を見られるのは嫌だったから言わなかったんだ。
強く握られたヤマトの拳が、暖かい手で包まれた。
「…また、一人で悩んでたのか?」
「別に・・・-」
ガタンと椅子が動く音がして、ヤマトの身体を太一がぎゅっと抱きしめた。
「気付かなくて、ごめん…」
「やめろよ。…こんな俺はキライなんだろ?」
太一の胸を押して、自分から離した。
ヤマトはそのまま抱きしめられていたら、泣いてしまう気がしたから。
それほどまでに、ヤマトの中で、彼が大きな存在になっていたのだ。
「違う。」
太一が引き剥がされた腕をのばしてヤマトの両肩をグッと掴んで言った。
「俺は・・・お前がバイトした事とか、悩んでいた事を、なんにも言わない『ヤマト』が嫌いなんだ!」
え?とヤマトが顔を上げると太一を真剣な顔をして自分を見ている事に、更に驚く。
茶色の瞳がいつもより少し揺れている。
太一はふいっと視線を横にずらして言い難そうに口を開いた。
「…心配、するだろ。急にこんな、モデルなんてバイト。
お前が…なんか脅迫でもされてやったんじゃねぇかって…」
脅迫?とキョトンとして太一を見た。自分の発した言葉に、かあっと顔を赤くして、そうだよ!と怒鳴った。
ヤマトはこらえ切れず、ぷっと吹き出した。
「あははっ!誰に脅されんだよ、ばぁか。」
「お、思ったのだからしょうがないだろ!!」
そう。時々太一は、ヤマトの想像もつかない事をするのを知っている。
しかし、まさかここで、この状況でそんな間抜けた発言をされるなんて思ってもいなかったから、いつも以上に可笑しい。
たくましくなっていく姿とは別にこういう一面がある事に、ほっとして、目じりの涙を指で拭う。
その涙には、悲しみや喜びというヤマトの感情が凝縮されているものであった。
こういう想いが込み上げてくるのは、後にも先にも、こいつの前だけであって欲しいとヤマトは密かに思う。
そんな事を考えながら笑っていると、太一が頬を膨らませて怒った。
「なんだよ!俺は笑われるために全力疾走してきたんじゃねぇぞ!俺はな・・・-」
「ああ、わかってる。」
言葉と同時に、今度はヤマトが太一を抱きしめた。
太一は驚いて両手が宙に浮いた状態のまま静止している。
「そういう太一が、俺は好きだな。」
自分を一番に心配してくれる。大切だからこそ、出来る行動なのだと理解したのはもうだいぶ前。
あの、奇想天外、摩訶不思議な冒険の中で学んだ事。
「お、俺だって!」
太一の手がぎゅっとヤマトの背中に回る。
ヤマトはまた小さくぷっと吹き出した。
「調子のいいヤツ。『キライ』はどうすんだよ。」
「もちろん撤回。」
「あっそ。」
本当に調子いいなぁ・・・とヤマトはしばらく太一の肩元で笑いが止まらなかった。
次の日の放課後、お台場中学校在学生の元選ばれし子供達は溜まり場であるパソコン室に集合した。
「へぇ~あのヤマトがねぇ…」雑誌を前に片肘をついて呟く空。
「ははは。なかなか決まってるじゃないか。」と、なぜかいる丈。
「でも、僕ならもっとここの角度とライトををこう…」二人の斜め前で、ちゃっかりパソコンにヤマトの記事を取り込み、加工し始めている光子郎。
「今のうちにサインや握手してもらっちゃおうかしら~v」と光子郎の隣りで京が浮かれている。
「サインはいいが、握手はダメだ。」
最も入口に近い位置でイスの背を胸に抱き、京に向かって指を差す太一。
立ち上がって足を肩幅に開き、両手を腰に当てて自慢気に言った。
「ヤマトに触っていいのは俺だけだからなっ」ふんっと鼻を鳴らす太一
「あー…はいはい」
勝手にして、と空は呆れた様にしっしっと手払いをした。
その光景に全員が笑ったのは言うまでもない。
一方、その頃…
「あっはっはっ!!何これ~!お兄ちゃんキモ~いっ」
「き、キモいって…」
風の噂(太一)で実兄が雑誌に載った事を知り、石田家にタケルと大輔、賢が訪れた。
渋々雑誌を見せ、そこにいるモデル気取りなヤマトにタケルが雑誌を叩いて大笑い。
タケルの言動にヤマトの笑顔は引きつる。
そんな兄はお構いなしと言わんばかりにタケルは続けた。
「だってさー黒髪なのに、何悪ぶってんのって感じ?」
「悪っ…―」
ヤマトは膝からガックリ床に崩れ落ちてしまった。
撮影時から薄々感じていた事をさらっと、しかも弟に言われて、ヤマトはしゃがみ込んだまま動けない。
「た、高石くん、何もそこまで…」
異様な兄弟のやり取りにヤマトがいたたまれくなった賢は、声をかけるが、大輔が隣りで、でもさーと賢を遮った。
「こんなの姉貴が知ったら、またヤマトさんのファンになりそ…」「大輔っ!!」
「うわぁ!!」
ヤマトはバッと起き上がり、突然大輔の両肩をガシッと掴んだ。
「…お前、そんな事言ってみろ。…どうなるか、わかってるよなぁ?」
そう言ったヤマトの優しい顔のこめかみには青筋が確認できる。
「あはは。無理だよ、お兄ちゃん。大輔くんが口軽いの知ってるでしょ?」「タケル!!」大輔の顔が青くなった。
「タケルくん!」
突然玄関でバタンと音がして、ヒカリがリビングへ飛び込んで来た。
「大変よ!!タケルくん!!」
「どうしたの?ヒカリちゃん?」
「これみて!!これ!!!」
ヒカリの手には雑誌が握られていた。それはヤマトが載っていたものとは違い、表紙にはこう書かれていた。
「『ジュゴン』?」
これまた有名な男性ファッション雑誌である。
「それがどうしたんだ?」
ヤマトの問いに、ヒカリはパラパラっと、あるページを開いてテーブルにバンっ!!と置いた。
『第○回 ジュゴンボーイ グランプリ発表』
と書かれて下に載っていたのは…
「た、タケルがグランプリーーーー!!??」
可愛くピースサインをして微笑んでいるタケルの写真だった。
「やったー!わぁ~嬉しいなぁv」
「お、お前いつこんなの応募して…」
「この前ヒカリちゃんに『出てみたら?』て言われて応募したんだ。そしたらいつの間にか最終選考まで残っちゃって。まさかグランプリ取れるなんて、僕もビックリだよ~」
タケルのひょうひょうとした言葉に、唖然とする男性陣一同。
そんな中でヒカリが笑顔でタケルの両手を掴んだ。
「ほらね、私の目に狂いはなかったわ。おめでとう!タケルくんv」
「ありがとう。やっぱりヒカリちゃんはすごいや。」
「そんな事ないわ。タケルくんの実力よv」
ヤマトと大輔と賢が固まっている横で、二人だけのムードが出来上がっていた。
翌日からお台場は、タケルのジュゴンボーイグランプリで大騒ぎとなった。
タケルの芸能界デビューを応援する声が飛び交う中、最後まで反対し続けたのは、他でもない、ヤマトであった。
fin
この間まで、この時間ならまだ空は明るかったのに。夏が終わる合図のようだと薄暗い空を見上げて溜め息をついた。
家に帰る途中、ふらりと寄った本屋で、良く知る顔を見た。
「よぉ」
「あ、太一さん」
学校でも有名な秀才、光子郎だった。
胸には数冊の参考書とパソコン雑誌が抱えられている。
「どうしたんですか?太一さんがこんな所にいるなんて。」
明日は雨ですねぇ、と、にこやかにからかう光子郎にムッとして斜め前にあった雑誌を乱暴に取った。
「これを買いに来ただけだっ」
目の前に出されたそれを見て、光子郎はへぇ、と意外そうに声を出した。
「太一さんもそういう本、買うんですね。」
太一の手には若者向けのメンズファッション雑誌が握られている。
サッカーにしか興味がないと思っていたのに、と太一を見上げた。
「…なんだよ。」
眉間にシワを寄せて恐る恐る問う太一に、光子郎はいつも以上ににっこりと笑う。
「いえ、人って変わるものだなぁと思いまして。」
光子郎の発言に太一はがくっと肩を落とした。
「あれ?」
突然、光子郎が太一の手元を見て変な声を出した。
「あの、太一さん。この人……」
光子郎が指差す雑誌の表紙を見た。そこには黒髪でサングラスをした華奢な青年が、さり気なくポーズを取っている。
「あーーーーーーー!!!!!!」
本屋中に太一の声が響き渡った。
叫ぶのも無理はない。
ジャケットを飾っていたのは、太一の愛しい無二の親友のだったのだから…。
「なんだこれは!!」
「……は?」
玄関を開けたと同時に目の前に出された雑誌と声に、ヤマト訳がわからず目の前の人物を見つめた。
太一はまだ制服で、エレベーターを待たずに、非常階段を駆け上がったのだろうか。
肩で息をして、額には汗をかいていた。
「これはなんだって聞いてんだよ!」
太一のそんな様子に、呆然と立ち尽くしているヤマトの胸に、太一ドンと例の雑誌を押しつけた。
ヤマトはその雑誌を手に取って眺めると、特に慌てる様子もなく、ああ、と理解しているかの様な声を漏らす。
「もう発売されたのか。」
ペラペラ~と自然にページを捲り、全体に目を通し始めた。
そんないつもと変わらぬ素振りをみせるヤマトに、ここに来るまで半信半疑だった太一の中の思いが、確信に変わり、強く握りしめていた拳を解き、だらりと腕を降ろした。
「やっぱり、これはお前なんだな…」
さっきの罵声を発した人物とは別人の様に俯きながら、太一が言う。
しばらくの沈黙の後、ヤマトは太一に視線を向け、ふぅ、と溜め息をつくと、扉を大きく開けた。
「入れよ。ここじゃ話せない。」
太一はヤマトに促されるまま、石田家に入った。
閑散としたリビングは陽が落ちてから、かなり経つというのに、むっとしていた。
太一は鞄をテーブルに置いて、椅子を引くと、いつもの-もはや固定席と言っても過言ではないそこに座った。
「ほらよ」
ヤマトは冷えた麦茶を太一の前に出した。
「………」
あれっきり、太一は俯いたまま、一言もしゃべらない。
わかっている。
何も言わなかった自分が悪い。
でも、太一ならきっと殴りかかってくるだろうと思っていたヤマトに、今のこの状況は予想外だった。
口も手も、あれきり閉ざされたまま。
はぁ、調子が狂う…。
ヤマトは再度溜め息をついて、太一に例の雑誌を投げると、彼の隣りに立って言った。
「確かに、これは俺だよ。」
太一が顔をあげて、ヤマトを見上げた。
その瞳は怒りより、悲しみに満ちていた。
そんな表情に一瞬言葉を詰まらせるが、ヤマトは先を続けた。
「夏休み前に親父から頼まれてやったバイトだ。学校や世間体があるから、嫌だと言ったら、髪を染めてサングラスも掛けていいと言われた。だから…」
「カネの為ならなんでもするのかよ。」
そう低く問う太一の言葉に、ヤマトは特に驚く様子もなく、静かに答えた。
「違う、これは…自分の為だ。」
そう言うヤマトの真剣な眼差しに絶え切れず、太一は再び俯いた。
「…俺はお前のそういう所が嫌いだ。」
太一の言葉にヤマトは驚いて目を見開いた。
―キライだ。
今まで、喧嘩の勢いで、自分が言う事は何度もあったが、今の関係になって、太一からこの言葉を聞くのは初めてだった。
胸の奥がズキズキする。
ヤマトは、ぎゅっと自分の胸を押さえて言った。
「…理解してもらおうなんて思ってないさ。」
高校3年生の夏といえば、もう進路を決めている時期。
それは自分達が子供でいられる時間も残りわずかということで・・・。
必死に働いている父を見て、早く楽をさせたいと思った。
そして、夢に向かって突き進む太一を見て、羨ましいとも思った。
「夢中になれるものがある太一が羨ましいよ」
ヤマトの声が、わずかにかすれた。
太一は、ヤマトの声に違和感を感じ、彼の名を呼んだ。
ーバンドで飯が食えるなんて思っていない。
自分の実力くらい、自覚してる。
だから、このバイトだって、そういう世界があるなら、見て見たいとは思ってした事だったんだ。
「黙ってて、悪かった」
自分には太一の様に大きな夢がなくて、それが悔しくて、悲しくて…。
探している自分を見られるのは嫌だったから言わなかったんだ。
強く握られたヤマトの拳が、暖かい手で包まれた。
「…また、一人で悩んでたのか?」
「別に・・・-」
ガタンと椅子が動く音がして、ヤマトの身体を太一がぎゅっと抱きしめた。
「気付かなくて、ごめん…」
「やめろよ。…こんな俺はキライなんだろ?」
太一の胸を押して、自分から離した。
ヤマトはそのまま抱きしめられていたら、泣いてしまう気がしたから。
それほどまでに、ヤマトの中で、彼が大きな存在になっていたのだ。
「違う。」
太一が引き剥がされた腕をのばしてヤマトの両肩をグッと掴んで言った。
「俺は・・・お前がバイトした事とか、悩んでいた事を、なんにも言わない『ヤマト』が嫌いなんだ!」
え?とヤマトが顔を上げると太一を真剣な顔をして自分を見ている事に、更に驚く。
茶色の瞳がいつもより少し揺れている。
太一はふいっと視線を横にずらして言い難そうに口を開いた。
「…心配、するだろ。急にこんな、モデルなんてバイト。
お前が…なんか脅迫でもされてやったんじゃねぇかって…」
脅迫?とキョトンとして太一を見た。自分の発した言葉に、かあっと顔を赤くして、そうだよ!と怒鳴った。
ヤマトはこらえ切れず、ぷっと吹き出した。
「あははっ!誰に脅されんだよ、ばぁか。」
「お、思ったのだからしょうがないだろ!!」
そう。時々太一は、ヤマトの想像もつかない事をするのを知っている。
しかし、まさかここで、この状況でそんな間抜けた発言をされるなんて思ってもいなかったから、いつも以上に可笑しい。
たくましくなっていく姿とは別にこういう一面がある事に、ほっとして、目じりの涙を指で拭う。
その涙には、悲しみや喜びというヤマトの感情が凝縮されているものであった。
こういう想いが込み上げてくるのは、後にも先にも、こいつの前だけであって欲しいとヤマトは密かに思う。
そんな事を考えながら笑っていると、太一が頬を膨らませて怒った。
「なんだよ!俺は笑われるために全力疾走してきたんじゃねぇぞ!俺はな・・・-」
「ああ、わかってる。」
言葉と同時に、今度はヤマトが太一を抱きしめた。
太一は驚いて両手が宙に浮いた状態のまま静止している。
「そういう太一が、俺は好きだな。」
自分を一番に心配してくれる。大切だからこそ、出来る行動なのだと理解したのはもうだいぶ前。
あの、奇想天外、摩訶不思議な冒険の中で学んだ事。
「お、俺だって!」
太一の手がぎゅっとヤマトの背中に回る。
ヤマトはまた小さくぷっと吹き出した。
「調子のいいヤツ。『キライ』はどうすんだよ。」
「もちろん撤回。」
「あっそ。」
本当に調子いいなぁ・・・とヤマトはしばらく太一の肩元で笑いが止まらなかった。
次の日の放課後、お台場中学校在学生の元選ばれし子供達は溜まり場であるパソコン室に集合した。
「へぇ~あのヤマトがねぇ…」雑誌を前に片肘をついて呟く空。
「ははは。なかなか決まってるじゃないか。」と、なぜかいる丈。
「でも、僕ならもっとここの角度とライトををこう…」二人の斜め前で、ちゃっかりパソコンにヤマトの記事を取り込み、加工し始めている光子郎。
「今のうちにサインや握手してもらっちゃおうかしら~v」と光子郎の隣りで京が浮かれている。
「サインはいいが、握手はダメだ。」
最も入口に近い位置でイスの背を胸に抱き、京に向かって指を差す太一。
立ち上がって足を肩幅に開き、両手を腰に当てて自慢気に言った。
「ヤマトに触っていいのは俺だけだからなっ」ふんっと鼻を鳴らす太一
「あー…はいはい」
勝手にして、と空は呆れた様にしっしっと手払いをした。
その光景に全員が笑ったのは言うまでもない。
一方、その頃…
「あっはっはっ!!何これ~!お兄ちゃんキモ~いっ」
「き、キモいって…」
風の噂(太一)で実兄が雑誌に載った事を知り、石田家にタケルと大輔、賢が訪れた。
渋々雑誌を見せ、そこにいるモデル気取りなヤマトにタケルが雑誌を叩いて大笑い。
タケルの言動にヤマトの笑顔は引きつる。
そんな兄はお構いなしと言わんばかりにタケルは続けた。
「だってさー黒髪なのに、何悪ぶってんのって感じ?」
「悪っ…―」
ヤマトは膝からガックリ床に崩れ落ちてしまった。
撮影時から薄々感じていた事をさらっと、しかも弟に言われて、ヤマトはしゃがみ込んだまま動けない。
「た、高石くん、何もそこまで…」
異様な兄弟のやり取りにヤマトがいたたまれくなった賢は、声をかけるが、大輔が隣りで、でもさーと賢を遮った。
「こんなの姉貴が知ったら、またヤマトさんのファンになりそ…」「大輔っ!!」
「うわぁ!!」
ヤマトはバッと起き上がり、突然大輔の両肩をガシッと掴んだ。
「…お前、そんな事言ってみろ。…どうなるか、わかってるよなぁ?」
そう言ったヤマトの優しい顔のこめかみには青筋が確認できる。
「あはは。無理だよ、お兄ちゃん。大輔くんが口軽いの知ってるでしょ?」「タケル!!」大輔の顔が青くなった。
「タケルくん!」
突然玄関でバタンと音がして、ヒカリがリビングへ飛び込んで来た。
「大変よ!!タケルくん!!」
「どうしたの?ヒカリちゃん?」
「これみて!!これ!!!」
ヒカリの手には雑誌が握られていた。それはヤマトが載っていたものとは違い、表紙にはこう書かれていた。
「『ジュゴン』?」
これまた有名な男性ファッション雑誌である。
「それがどうしたんだ?」
ヤマトの問いに、ヒカリはパラパラっと、あるページを開いてテーブルにバンっ!!と置いた。
『第○回 ジュゴンボーイ グランプリ発表』
と書かれて下に載っていたのは…
「た、タケルがグランプリーーーー!!??」
可愛くピースサインをして微笑んでいるタケルの写真だった。
「やったー!わぁ~嬉しいなぁv」
「お、お前いつこんなの応募して…」
「この前ヒカリちゃんに『出てみたら?』て言われて応募したんだ。そしたらいつの間にか最終選考まで残っちゃって。まさかグランプリ取れるなんて、僕もビックリだよ~」
タケルのひょうひょうとした言葉に、唖然とする男性陣一同。
そんな中でヒカリが笑顔でタケルの両手を掴んだ。
「ほらね、私の目に狂いはなかったわ。おめでとう!タケルくんv」
「ありがとう。やっぱりヒカリちゃんはすごいや。」
「そんな事ないわ。タケルくんの実力よv」
ヤマトと大輔と賢が固まっている横で、二人だけのムードが出来上がっていた。
翌日からお台場は、タケルのジュゴンボーイグランプリで大騒ぎとなった。
タケルの芸能界デビューを応援する声が飛び交う中、最後まで反対し続けたのは、他でもない、ヤマトであった。
fin
PR
この記事にコメントする